2019年7月13日土曜日

ガジャノバ先生

今日までにどうしてもしなければならないことがあった。それは、3年前、ブルガリアで壁画を描いたときに、話を聞いてくれ壁を提供してくださった、第18ウイリアムグラッドストーン校の副校長先生、ガジャノバ先生にご挨拶することだった。今週の平日はいらっしゃるということだったので、学校に電話をかけてアポイントメントをとる。「こんにちは。私は日本人の画家でシンイチロウ・ヒガシです」と言っただけで「少々お待ちください」と。てっきり英語か日本語のできるスタッフに電話が変わるのかと思ったが、直接、先生にお取次ぎくださった。午後3時半まで学校にいるけど、その後、所用ででかけるのと。わかりました、3時までには伺いますとお話して電話を切った。

はちみつとマーガリンをたっぷり塗ったパンにコーヒーで体が目覚めた気がした。付け加えておくが、ブルガリアのハチミツは絶品だ。癖がなく滑らかで、冷蔵庫に入れても硬化しない。

さらにシャワーを浴びてさっぱりしたところで、二人で出かけた。宿から学校へは徒歩で15分ほど。最初、まさか学校が夏休みに入っているとは思わずに、先生にお願いして、子どもたちの写真を山ほど撮らせて頂こうと画策していたのに、思いっきり当てが外れた(笑)
それでも、ブルガリアでの撮影枚数はかなり善戦していると思っている。時間や天候に振り回されつつも、一回の撮影で20枚を切ることがないから。

少々迷いながら学校にたどり着く。ガードマンにご挨拶してから、先生のお名前を出すと、応接室に通してくださった。奥の執務室からガジャノバ先生が出ていらした。「お久しぶりです。先生、3年前よりもお若くなられた気がします。冗談ではないですよ」というと「本当?ありがとう。でも、64歳になってしまったわ」と。

久しぶりにお会いできたことを喜びながら、しばらく応接室でお話をさせていただいた。3年前の話はもちろん、現在のプロジェクトに関する話。そして、壁画の活動が、このブルガリアでの制作の後、大きな転換をしたこと。お互いに近況を話し、話がひと段落したところで「先生、ちょっと歴史、特にオスマン帝国支配の事について伺いたいのですが」と。「もちろん、どうぞ」と笑顔が帰ってきた。
「今回の滞在でブルガリアの複雑な歴史を知りました。そして街にも、その複雑な歴史が残っていますよね」「そうね。イスラム寺院もあるし、正教会はもちろん、カトリックも。そして、ヨーロッパ最大のシナゴーグ(ユダヤ教)もあります。これは第2次世界大戦でブルガリアはユダヤ人を保護した唯一の国だったからです。それがブルガリアの特徴です」「先生がおっしゃったように、ブルガリアはとても、人種や宗教に友好的だと思います」続けて「オスマン帝国の支配下で、文化的・宗教的な面、また言語など、強制的な支配があったと聞いていますが、それでも尚、現在、ムスリムに対して友好的な雰囲気の理由が知りたいのです」

「まず、オスマン帝国の支配は、圧政ではないという見方があります。これはバルカン半島において、民族の自立を願う人々がオスマン帝国の支配を悪く言う必要があったからだと捉えられています。実際は、文化、宗教、言語において強制をされることなく、支配を享受していたという見方が正しいでしょう。また、オスマン帝国の支配は約500年前に始まり、解放されて150年ほどが経っています。時間が経っているというのも、大切な理由でしょう」と。

お時間は大丈夫ですかと伺うと、まだ、大丈夫と言う話だったので「先生の目線から共産主義時代と資本主義時代を比較していただけますか?」と。「資本主義がいいわ。何故なら、共産主義時代は移動の自由もなかったし、学問の自由もなかった。私の甥や姪は国外の大学で学んでいるの。その方がより良い学びになるし、何よりも将来の選択が広がるわ」と。「ただ、共産主義時代は失業者もなく、皆、サラリーをもらえていたんですよね。今、貧しい人が増えているじゃないですか」と聞くと「共産主義時代は働かずに給料をもらいたがる人がいた。今は学び意欲があれば成功を手に入れることができる。ただ、私はここで、相変わらず変わらない生活をしているけれどね」と。

先日のマリアさんの話とは、また違ったお話になった。ただ、共通しているのは、これまでの歴史を否定することなく、この複雑な歴史が織りなす文化的側面を誇りに思っていらっしゃるということだ。皆、込み入った話をした、マリアさん、スタンチョさん、ガジャノバ先生。3人ともブルガリアが大好きなのだ。そして、ブルガリアだけでなく、バルカン半島という歴史的に非常に複雑な地域で、独特の文化や雰囲気を持つにいたった過去もまとめて好きなのだと分かったとき、単純に「素敵だなあ」と思ってしまった。

最後に、3人で校庭に出て、壁画を見ながらメッセージのスペルにミスがあったことを明かし、3人で大笑いして、日本大使館が出資してできた校舎と庭を拝見して、当時の話に花を咲かせた。

先生は来年で、この学校を退職することになっているそうで、個人の連絡先をくださった。来年から他の学校で教えていると思うから、次回はここに連絡をくださいねと。

お忙しい中、長話に応じて頂き、また、作品の一コマにもなっていただいた。感謝を伝え、再会をお約束して、握手して学校を後にした。

本日の撮影枚数は1枚(笑)。しかも、かなり良い話を聞けたのに、録音し忘れた・・・。ただ、とても有意義な一日を過ごせた気がして気分が良かった。

撮影枚数713枚。