東慎一郎と申します。画家です。1969年、鹿児島県鹿屋市に生まれました。
小さいころ自分の思ったことをうまく表現できずに、随分苦しんだ覚えがあります。そのせいか絵を描くことが大好きでした。そのお陰といってはなんですが美術の先生になることができました。既に教壇は去りましたが、今でも絵を描き続けています。そして表現者として、何を描くべきなのかということを ずっと考えて続けていました。
そんな中、高校の教え子だった通信記者に招かれて中東に参りました。2014年春のことです。
中東では、殺して、仕返しをしてという悪い連鎖が続いていました。そこで、テロリズムが人を殺す様子を目の当たりにしました。しかし、人の命を奪う権利などどこにもありません。画家としてそんな表現の存在を認めることはできないと思いました。
私自身もカイロの旧市街を歩いている時に、イスラム過激派に影響された若者に道をふさがれたり、近くで自爆テロを経験したりしました。
この時に画家として何ができるんだろうと考えまして、エジプトに平和を願うハトの壁画を描きました。その時にこれだと。私の描くべきものはこれなんだということに気がつきました。
確かにテロ・戦争の前では、絵の力なんて小さいと思います。しかし、少しでも平和への思いを繋なぎたい。そんな思いから、エジプト訪問後、毎月コツコツお金を貯め、4年間で10カ国、夫婦でハトの壁画を描く取り組みを進めて参りました。
ウクライナの小児脳外科病院に参りました。内戦と原発事故の処理で、医療にまわせる予算が少ないのだそうです。日本であれば助かる命が助かりません。
アメリカとメキシコの国境の壁には不法入国を試みて亡くなったメキシコ人の墓標が延々と続いていました。
この時私は戦争で人が死ぬということと、ここで沢山の人が死んでいるという事実に、どんな違いがあるのだろうと思いました。戦争でなくともこうやって大勢が亡くなることを知り、一体平和とはなんなのだろうと深く考えるようになりました。
沖縄に10か国目の壁画を描き上げた後、多くのメディアにとりあげて頂きました。美術展もして、講演会もしました。いっしょうけんめい、自分なりに 思いを伝えてきたつもりでした。しかし、当初の「平和への絆を作る」という目標を達成できていないような気がしたのです。自力で成し遂げようという気持ちが強すぎて、結果的に限られた人しか巻き込むことができなかったのではないかと考えるようになりました。
それから、制作過程そのものに大勢の人が関われるような方法がないか考えまして、絵画と写真を使ったアニメーション映像作りにたどり着いた次第です。
鳩が羽ばたく様子を描いた7枚の絵を持って世界を旅します。出会った人に絵を持っていただいて、それを写真に収めます。コマ送りにすると、アニメーションができあがるという仕組みです。平和の象徴としての鳩の絵が、世界中の人の手を借りて、初めて飛び回ることができるのです。この活動を通じて、平和への思いがこの鳩のように国境や人種を超えて世界中を飛び回ってほしいと、そんな思いを込めています。
また、旅を通じて世界中にできた友人やアーティストと平和や表現について語り合い、さらに考えを深めたいと思っています。
皆で繋いだ平和への思いが、戦争やテロといった負の連鎖を断ち切る日が必ず来ると信じています。画家人生をかけてこの活動に力を注ぐ所存です。どうぞ、皆様のお力をお貸しください。よろしくお願いいたします。
東慎一郎・かおり