2019年7月1日月曜日

13歳の正義

パリ市内に出て撮影しようかと言っていたところに、中庭で水鉄砲で遊ぶ子供たちが。なにやら騒がしい。パリに出る前に大家さん家族にも撮影に協力してもらえたらと、メッセージを送るが、なしのつぶて。気配はするのだが。

撮影の意図と協力の要請を、英語で打ち込みグーグル翻訳でフランス語変換。ラップトップをそのまま抱えて大家さんのお宅を訪ねた。

表に出ると、通りは封鎖され、テントが張られて、大勢の人々が食事を楽しんだり飲んだりしている。子どもたちは水着でビニールプールやホースで水浴び。大家さんにパソコンを見せるとOKだという。で、通りの皆さんにも協力してもらえないかと伺うと「それもOK」だと。準備してきますと、部屋に戻り、道具をもって通りに出た。

英語OKの方が5人ほどいらっしゃったのと、中学生の女の子が二人とも英語OKだったので、通訳をしてもらいながら撮影意図やこれまでの経緯を説明した。また、この集まりは何なのか伺うと「年に一回、通りのみんなでこうやって食事や酒を楽しむのさ」と。いいよいいよ、みんな協力しようぜという話になって、ほぼ参加者全員の31名が撮影に協力してくださった。

その後、何でこんなことをしているのか根掘り葉掘り聞かれ、酒を勧められ、かおりとのなれそめを聞かれ、ワインやブランデーを勧められた。いける口だとわかると次々に珍しい酒を家から引っ張り出しては飲ませてくださった。

中でもすごかったのは30年物のリンゴ酒。もう度数は火が付くレベルで口当たりもへったくれもないのだが、慣れてくるとスムーズに喉を抜けた後、ほのかな果実の香りと何とも言えない熟した渋い香りが鼻の奥にかえってくる。

大家さんの娘さんが、かおりに一生懸命フランス語講座をしてくれていた。英語も結構通じる。かおりが娘さんに「そういえば、将来は何になりたいの?」と聞いた。即「兵士よ!愛する人たちを守るの!」と。思わず話に割り込んだ。「僕も兵士になることを考えたことがあるんだ。しかも、僕以外の家族はみんな兵士なんだよ」と前置きをして、さらに質問した。「もし、上官から、人々を守るため以外の、例えば、ただの攻撃だとかの命令をされたらどうする?」と聞いてみた。

自分にも自衛官への道を親に勧められた経験がある。平和を希求しながら兵器を持つという矛盾を解決できずに、高3になって、防衛大学校を受験しない旨、親に伝えた経験があった。それもあって、13歳の彼女がどんな考えを持っているのかとても気になったのだ。ちなみに、僕は自衛隊の存在や自衛官を否定しない。自己矛盾を解決できなかったからその道に進まなかっただけだし、また、何より絵を描くことが好きだったから。

答えに相当悩んだみたいだったが「もし、自分や自分の愛する人たちを守るためだったら攻撃する、でも、そうでなかったら・・・選ぶかな(命令に背くこと)」

自らの正義に基づいて攻撃をするかどうか判断するという意味だろう。13歳の持つ「正義」とは何だろう。そんなことを考えていたら、そろそろ皆さんおしまいよーと、片付けが始まった。片付けを手伝いつつ、皆さんに、こんな素晴らしい集まりに参加さえて頂いてありがとうございましたとお礼を言って部屋に帰った。

僕の「正義」とはなんだろう。また、全く異なる「正義」と「正義」がぶつかったときに起こりうる摩擦はどうすれば解決できるのか。それが分からなかったから防衛大学校を受験しなかったわけだし、今、こうやって7枚の絵を抱えて旅をしながら、人と関わり続けているのだろう。

写真は例のリンゴ酒と私。