イスラム圏を抜けたら、この事を公表しようと思っていた。現在、カトマンズである。読んでいたければ事情は分かっていただけると思うが、国名も個人情報も全て伏せなければならない。それを承知で読んでいただければありがたい。
中東の旅で友人ができた。彼はゲイだ。出会って2回目に気が付いた。半裸で男性の友人と仲睦まじく抱き合う様子を目の前で見たから。日本にもゲイの友人はいるんだけれども、僕の目をはばからず、ここまで赤裸々に、お互いを愛おしそうにするものだから、ちょっとどぎまぎしてしまった。ゲイに限らず、中東の若い人は自宅に帰ると人が変わったように、人目をはばからずイチャイチャする。兎に角、中東のプライベート空間に入ると、目のやり場に困るこがしばしば。外では手もつながないのになあ。
彼の家にはお友達がたくさん訪ねてくる。彼らもゲイで、恋人だったり同じビジネスをしていたりするみたい。イスラム教で同性愛は禁じられているのは知っている。確かイスラム法では死罪じゃなかっただろうか。いや、違ったかな?
そんな中で、リビングで恋人と仲良く過ごすお二人さんを見て、お邪魔しちゃ悪いなと思い、ちょっと気を使っていた。上半身裸で抱き合っていたり、とても仲かよさそうな様子を見ると「自由にくつろいでよ」と言われても「僕ら、ちょっとお邪魔虫だよな」と気を使ってしまう。
ある日、どうしても尋ねたいことがあって彼を訪ねた。彼は家に1人だった。「入っていいですか?」「もちろん。どうぞどうぞ。何でそんなに遠慮するのさ」と。すると彼は「もしかして怒ってる?」と。「いや、怒っていないけどどうして?」「自由に遊びに来ていいし、くつろいでといっているのに、とても家に入るのを遠慮いるように見える。そして、用事が終わるとすぐ帰る。もしかしたら、友人たちが大勢尋ねてくるから、怒っているのかと思って」「ちがいますよ。これは僕らの、あなたのプライベートへの配慮です」「凄くシャイなの?」「妻はシャイだけど、僕はシャイじゃないです。日本ではプライベートをお互いに尊重しようという習慣があるの」「怒ってないの?」「絶対に怒っていないから。僕らの習慣だと理解してほしい」「分かった。あと、僕はゲイだから」「そのことは知ってるよ。日本の友達にもゲイがいる。特別なことじゃない」
気が付いていたけど、ここで初めて彼は自らの口から「ゲイ」であるということを口にした。僕が聞きたかったのは「そこ」だったのだ。多様な価値観の中に「LGBT」が含まれていたから。
「そのことについて聞きたいことがあるんだ。そして良かったら、それをインタビューさせてほしい」「わかった」「まず、あなたはイスラム教徒?」「いや本当は違うよ」「わかった。ここはイスラム圏だよね」「そうだね。ここには沢山のモスクがあるしね。だから、どこ行っても、アザーンが流れているでしょ」「そうだねえ」で、本題に切り込んだ。
「率直に。イスラム圏でゲイは普通に存在できる権利があるの?」「イスラムではゲイは罰せられる存在だよ。自分がゲイだと分かった時に、僕はムスリムではいられないと思った」
彼がムスリムでない理由は、自身がゲイだと気づいたとこだとが原因だと。
「ここでは法律の下でLGBTは守られていないの?」「仮に法律があっても、イスラムの教えや社会は僕らの存在を許してくれない」「そうか。それは日本でも同じかもしれない。表現の自由は認められているけど、それをカミングアウトすると、人からどんな目で見られるかわからない。僕の友人はカミングアウトはしていないよ」「世界には政府がLGBTの人々の権利を認めて守ってくれる国があるよね。しかし、ここはそうではない」「そうなんだ」「カミングアウトすると、いったいどうなるかわからない。だから、ゲイのコミュニティーの仲間と妹にしか伝えていないよ」
「そんな状況で、僕らによくゲイであることをカミングウアウトしたね」「君らは出会った時に、平和のために、多様な価値観を認めることが必要だと言った。だから、君らなら大丈夫だと思ったんだ」「そう。そこなんだ。その多様な価値観のなかのひとつにLGBTも含まれるんだ」「そうなんだね。安心したよ」「僕もそれを聞いて安心したよ」彼の顔が少し緩んだ。彼は僕らのことを信用しながらも、緊張していたんだ。それはそうだろう。話は続く。
「君がこんな繊細な話に時間を割いてくれることに感謝するよ」「いや、いいんだ」「君の話は、必ず世界の平和のために役に立つと思う。全ての人には、表現や宗教選択の自由を持つ権利がある。そして普通の生活をおくる権利も」「だから、政府がLGBTを保護してくれている国を本当にうらやましいと思うんだ」「将来、そんな世の中がここにも来るように祈っている。そして、君の話を役立てることを約束するよ」
話は日常生活に及んでいく。「いつも外の顔と内の顔を分けなければならない。自分に毎日嘘をつかなければならない。それが苦しいよ」「わかります。家で振る舞えるように外でも振る舞えたら幸せでしょうね」「僕はもう結構いい歳だから、みんな、どうして結婚しないのかとか、恋人はいないのかとか、子どもは欲しくないのかと聞く。その度に嘘をつかねばならない。それがとても辛いんだ」
「子どものころ、自分がゲイである事に気が付いたんだ。神様はゲイの存在を罰するということを知った。その時、神様は僕をどうして存在させたんだと思った。罰するためだけに僕を存在させているのかと考えた。けど、誰にもそのことを話すことができないんだ。皆、イスラム教徒だし、僕の存在は悪いことだと思えたから」彼はため息をついた。
「僕はブッディストだから神の存在について深く考えない。ただ神様は、僕らに道徳的で寛容な事を望むと思う。これは僕の考えだけど、神に問題があるのではなくて、宗教に問題があると思う。宗教、特にイスラム教は、厳しい生活環境を皆で助け合って生きる知恵も含まれている。ただ、それの解釈が間違っていると思うんだ。だから、神は君の事を罰することはないと思う」
「仏教ではLGBTはどの様に扱われているの?」「原始仏教はLGBTについて触れてないと思う。ブッダは全ては移り変わるというし、この世の全ては・・・(空という観念を説明できなかった)なんていえばいんだろう・・・意味がないというか、日本語だったら上手く説明できるんだけど。兎に角、LGBTだろうが、他の何かだろうが、そこに特別な意味はないと気づいた人がブッダなんだ」「そうか。仏教はいいね」「仏教はいいかもしれないけど、日本には宗教に関心がある人は少ない。宗教よりも社会性が大切で、他人が自分の事をどう思うかが大切なんだ。だから、日本でもLGBTの人は自分を表現することが難しいよ。でも、イスラム圏ほどではないかもしれない」
「そうなのか。日本はそうなんだね。僕は宗教を信じられなくて哲学に頼っているよ。あそこの本棚にある哲学の本なんだけど分かるかい?」「いや、見たことはない。僕は哲学者では、カントやボルテール、あとショウペンハウアーが好きだな。カントやボルテールは、多くの価値観を認めることが大切だと言っているよ」「そういう世界では嘘をつかなくてもいいんだよね」「いつか、宗教や人種、国境やジェンダー、世界が抱える問題を越えて、皆が自分に嘘をつかずに日常生活を送ることができる日が来ればいいと思います。そして、そんな世の中が来るために、僕らはあなたの意見を無駄にしません」
気が付けば1時間以上話を話をしていた。話が長くなったことを詫びて自宅に帰った。
宗教、国境、人種の問題だけではない。人を隔てるものは多岐にわたる。それをどうやって受容し、皆が自分に嘘をつくことなく生きていける世の中。その上で、生存権が脅かされない世の中作りも大切なのだと思った夜だった。
中東の旅で友人ができた。彼はゲイだ。出会って2回目に気が付いた。半裸で男性の友人と仲睦まじく抱き合う様子を目の前で見たから。日本にもゲイの友人はいるんだけれども、僕の目をはばからず、ここまで赤裸々に、お互いを愛おしそうにするものだから、ちょっとどぎまぎしてしまった。ゲイに限らず、中東の若い人は自宅に帰ると人が変わったように、人目をはばからずイチャイチャする。兎に角、中東のプライベート空間に入ると、目のやり場に困るこがしばしば。外では手もつながないのになあ。
彼の家にはお友達がたくさん訪ねてくる。彼らもゲイで、恋人だったり同じビジネスをしていたりするみたい。イスラム教で同性愛は禁じられているのは知っている。確かイスラム法では死罪じゃなかっただろうか。いや、違ったかな?
そんな中で、リビングで恋人と仲良く過ごすお二人さんを見て、お邪魔しちゃ悪いなと思い、ちょっと気を使っていた。上半身裸で抱き合っていたり、とても仲かよさそうな様子を見ると「自由にくつろいでよ」と言われても「僕ら、ちょっとお邪魔虫だよな」と気を使ってしまう。
ある日、どうしても尋ねたいことがあって彼を訪ねた。彼は家に1人だった。「入っていいですか?」「もちろん。どうぞどうぞ。何でそんなに遠慮するのさ」と。すると彼は「もしかして怒ってる?」と。「いや、怒っていないけどどうして?」「自由に遊びに来ていいし、くつろいでといっているのに、とても家に入るのを遠慮いるように見える。そして、用事が終わるとすぐ帰る。もしかしたら、友人たちが大勢尋ねてくるから、怒っているのかと思って」「ちがいますよ。これは僕らの、あなたのプライベートへの配慮です」「凄くシャイなの?」「妻はシャイだけど、僕はシャイじゃないです。日本ではプライベートをお互いに尊重しようという習慣があるの」「怒ってないの?」「絶対に怒っていないから。僕らの習慣だと理解してほしい」「分かった。あと、僕はゲイだから」「そのことは知ってるよ。日本の友達にもゲイがいる。特別なことじゃない」
気が付いていたけど、ここで初めて彼は自らの口から「ゲイ」であるということを口にした。僕が聞きたかったのは「そこ」だったのだ。多様な価値観の中に「LGBT」が含まれていたから。
「そのことについて聞きたいことがあるんだ。そして良かったら、それをインタビューさせてほしい」「わかった」「まず、あなたはイスラム教徒?」「いや本当は違うよ」「わかった。ここはイスラム圏だよね」「そうだね。ここには沢山のモスクがあるしね。だから、どこ行っても、アザーンが流れているでしょ」「そうだねえ」で、本題に切り込んだ。
「率直に。イスラム圏でゲイは普通に存在できる権利があるの?」「イスラムではゲイは罰せられる存在だよ。自分がゲイだと分かった時に、僕はムスリムではいられないと思った」
彼がムスリムでない理由は、自身がゲイだと気づいたとこだとが原因だと。
「ここでは法律の下でLGBTは守られていないの?」「仮に法律があっても、イスラムの教えや社会は僕らの存在を許してくれない」「そうか。それは日本でも同じかもしれない。表現の自由は認められているけど、それをカミングアウトすると、人からどんな目で見られるかわからない。僕の友人はカミングアウトはしていないよ」「世界には政府がLGBTの人々の権利を認めて守ってくれる国があるよね。しかし、ここはそうではない」「そうなんだ」「カミングアウトすると、いったいどうなるかわからない。だから、ゲイのコミュニティーの仲間と妹にしか伝えていないよ」
「そんな状況で、僕らによくゲイであることをカミングウアウトしたね」「君らは出会った時に、平和のために、多様な価値観を認めることが必要だと言った。だから、君らなら大丈夫だと思ったんだ」「そう。そこなんだ。その多様な価値観のなかのひとつにLGBTも含まれるんだ」「そうなんだね。安心したよ」「僕もそれを聞いて安心したよ」彼の顔が少し緩んだ。彼は僕らのことを信用しながらも、緊張していたんだ。それはそうだろう。話は続く。
「君がこんな繊細な話に時間を割いてくれることに感謝するよ」「いや、いいんだ」「君の話は、必ず世界の平和のために役に立つと思う。全ての人には、表現や宗教選択の自由を持つ権利がある。そして普通の生活をおくる権利も」「だから、政府がLGBTを保護してくれている国を本当にうらやましいと思うんだ」「将来、そんな世の中がここにも来るように祈っている。そして、君の話を役立てることを約束するよ」
話は日常生活に及んでいく。「いつも外の顔と内の顔を分けなければならない。自分に毎日嘘をつかなければならない。それが苦しいよ」「わかります。家で振る舞えるように外でも振る舞えたら幸せでしょうね」「僕はもう結構いい歳だから、みんな、どうして結婚しないのかとか、恋人はいないのかとか、子どもは欲しくないのかと聞く。その度に嘘をつかねばならない。それがとても辛いんだ」
「子どものころ、自分がゲイである事に気が付いたんだ。神様はゲイの存在を罰するということを知った。その時、神様は僕をどうして存在させたんだと思った。罰するためだけに僕を存在させているのかと考えた。けど、誰にもそのことを話すことができないんだ。皆、イスラム教徒だし、僕の存在は悪いことだと思えたから」彼はため息をついた。
「僕はブッディストだから神の存在について深く考えない。ただ神様は、僕らに道徳的で寛容な事を望むと思う。これは僕の考えだけど、神に問題があるのではなくて、宗教に問題があると思う。宗教、特にイスラム教は、厳しい生活環境を皆で助け合って生きる知恵も含まれている。ただ、それの解釈が間違っていると思うんだ。だから、神は君の事を罰することはないと思う」
「仏教ではLGBTはどの様に扱われているの?」「原始仏教はLGBTについて触れてないと思う。ブッダは全ては移り変わるというし、この世の全ては・・・(空という観念を説明できなかった)なんていえばいんだろう・・・意味がないというか、日本語だったら上手く説明できるんだけど。兎に角、LGBTだろうが、他の何かだろうが、そこに特別な意味はないと気づいた人がブッダなんだ」「そうか。仏教はいいね」「仏教はいいかもしれないけど、日本には宗教に関心がある人は少ない。宗教よりも社会性が大切で、他人が自分の事をどう思うかが大切なんだ。だから、日本でもLGBTの人は自分を表現することが難しいよ。でも、イスラム圏ほどではないかもしれない」
「そうなのか。日本はそうなんだね。僕は宗教を信じられなくて哲学に頼っているよ。あそこの本棚にある哲学の本なんだけど分かるかい?」「いや、見たことはない。僕は哲学者では、カントやボルテール、あとショウペンハウアーが好きだな。カントやボルテールは、多くの価値観を認めることが大切だと言っているよ」「そういう世界では嘘をつかなくてもいいんだよね」「いつか、宗教や人種、国境やジェンダー、世界が抱える問題を越えて、皆が自分に嘘をつかずに日常生活を送ることができる日が来ればいいと思います。そして、そんな世の中が来るために、僕らはあなたの意見を無駄にしません」
気が付けば1時間以上話を話をしていた。話が長くなったことを詫びて自宅に帰った。
宗教、国境、人種の問題だけではない。人を隔てるものは多岐にわたる。それをどうやって受容し、皆が自分に嘘をつくことなく生きていける世の中。その上で、生存権が脅かされない世の中作りも大切なのだと思った夜だった。