旅のきっかけ
音楽を通じて知り合った在日韓国人の友人が徴兵された。それからというもの、朝鮮半島情勢が不安定になるたびに彼の無事を祈る日々が続いた。除隊が近づいたある日、彼が久々に電話をくれたので、私もこれまでの活動について話をした。彼は部隊の上官に掛け合ってくれて、韓国軍の施設内に絵を描く機会が生まれた。
右が兵役が終わったばかりのシュウ君。左は共通の友人ヒュンジェ君。
彼らは通訳だけでなく、制作まで手伝ってくれた。
韓国軍施設の入り口。この後は撮影不可で記録は一切残っていない。
実物は公開不可なので、南九州市にレプリカを作成した。
旅を終えて
ソウル市内は平和そのもの。街は美しく整備され、そこには多くの外国人観光客が訪れていた。2013年に北朝鮮が不可侵条約を破棄して以降、事実上の戦時状態にある国だとは思えなかった。しかし、軍施設内に入ると雰囲気は一変。一切の記録を禁止され、カメラや通信機器は一時預かりとなった。また、機密を漏えいした場合は懲役に処すと書かれた誓約書にサインをしなければならなかった。周囲を見渡すことさえはばかられるほどの緊張感のなかで、これまでの活動の経緯について彼の上官に話をした。平和を維持するために軍が存在し、軍人も同じように平和を願っていることを知ってほしいと言われた。振り返れば私も、防衛大学校への進学を父に進められて悩んだことがあった。平和を希求しつつ戦闘の準備をするという矛盾に自分なりの答えが見つけられず、結局、絵を学ぶことを選択した。日本には、このような選択の自由がある。ところが韓国の若者にはない。街の風景も、闊歩する若者の顔つきも似通っているのに。
壁画の場所
※場所はソウル市近郊。機密により詳細は表示できません。